ぶん太日記 1
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1年半前、バサバサで、ガリガリで、時には血を流してるような猫が家の近くに現れた。本当に死にそうだったので、どうかこんな近くでのたれ死なないでと、餌だけあげた。立派な野良になれよと思っていた。私も夫は猫が好きだが、夫は猫のいるお家で呼吸困難になるくらいの猫アレルギーだったので、我が家では飼えない。ガリガリの猫は餌をあげてもあげても身体は太らず、暑い日もバカみたいに道の真ん中で転がってるし、その辺のコロコロと太った野良猫よりなんだか同情してしまう。最初はシャーシャー形だけ言っていた。そのうち家に帰ってくるとどこからか聞きつけてやってきて、庭先でしゃがむと膝の上にシュタッと飛び乗りグウグウと寝る、という流れが定着した。こんなにも何かに甘えられたことはなかった。うっとりとした顔をして、下から見つめられると、泣きそうな気持ちになった。

野良猫に餌をやりつづけてるとご近所に怒られてしまうかもしれない、という気持ちと、この猫を大事に思う気持ちの板挟みで半年が過ぎた。猫は家に入れて欲しいと鳴くようになった。一階のリビングにいれば、私たちの姿が見える窓を探して外から鳴く。ずうっと鳴いている。我慢強い。二階に上がると、猫も外のどこからか伝って上がってきて、窓越しに作業する私の顔を見て鳴く。窓にかかった手すりの上を左右に歩いて、入れろ入れろと鳴いた。
そうやっていたら、ある夜、猫が手すりから落ちていった。にゃんぱらり、出来ていたらいいけどうちの裏のドブ川に落ちていたらどうしよう。落ちていった声を聞いて、夫が懐中電灯を持って探しにいった。猫は見つからなかった。
何日かしてご飯を食べにきた時、本当にホッとした。心は完全に掴まれてしまった。夫は猫が他の猫と喧嘩する声を聞くたびに、他の大きな猫を追い払いに行くようになった。痩せた猫は、睨み合ってもウーウー言うだけで手は出さず喧嘩に勝てなかったから。
猫が大好きな友人が遊びにきて、痩せた猫に名前を名付けて帰った。なぜか菅原文太のようになれよと、ぶん太と言った。
 
夏が終わる頃 台風が来るという予報を聞いた。ぶん太ハウスを作ろうと、ベランダにプラスチックのケースを横にして、クッションやタオルを入れた。餌の皿を入れたらそこで寝るようになった。雨が吹き込みびしょ濡れになった寝床に横になれず、立ち尽くしていた時もあった。その後2回ほどハウスを作り変え、最終的には夫が木でしっかりと作ったハウスにぶん太は寝た。
自分がどんどんぶん太に心を奪われていくのと同時に、ぶん太も押しが強くなった。閉まっている網戸を自分で開けて入ってきてしまった。困ったけれど可愛くて追い出せず、私のアトリエだけ猫に開放することでなんとか妥協案を見つけた。夫も家の中にぶん太がいる様子をチラチラ見にきた。すぐに夫の膝に乗った。その様子に2人ともメロメロになった。なし崩しとはこれのことだと思った。夫のアレルギー対策として、猫を毎日タオルで拭いた。ふかふかの毛になった。夫も触れるようになった。あっという間にリビングが解放された。
 
家の中に猫がいるというのはこんなにも幸せなのかと知る。外で野良猫を触るのとは格段に違う。うっとりした猫と、ゴロゴロ寝る。そしてこの子と、あと10年以上一緒に生きてくのだなと想像した。





by chi-colla | 2017-09-13 12:03
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